ミヒルとイセイは、ヤネリの案内でヤマク村へ辿り着いた。村の空気は騒然としていて、そこらじゅうで血だらけの村人が運ばれている。その行先を視線で追うと、むき出しの地面に筵が敷かれ、その上に数人の村人たちが重ねられている。どの村人も血で汚れていて動かない。すでに亡くなっているのだろう。
 怪我をしている村人たちは他の村人の肩を借りてゆっくりと進んでいき即席の救護所に集められ、寝かせられている。そちらからはうめき声がかすかに漏れ聞こえる。そこで村人たちの世話をしていた女性がこちらに気づき、まっすぐ走ってきた。
「やっちゃん!良かった、無事だったんだねえ。ウチナリに会わなかったかい?」
 ヤネリは首を振る。
「先生には、会ってない。この人たちに助けてもらった」
 顔を伏せたままヤネリは話し続ける。
「ありがとうございます。やっぱり、狼ですか?」
 女性はミヒルたちの方を向いて深々と頭を下げる。
「ええ、危ないところでした。ですが、私たちが気づいたときには、すでにもう一人の男の子は亡くなっていました」
 沈痛そうな面持ちでミヒルは伝える。
「そうですか……」
 ミヒルの言葉に村の女性は顔を曇らせた。
「ツグノ姉ちゃん、なっちゃんは?」
 ようやく少しだけ顔を上げたヤネリは、上目遣いにツグノへ尋ねる。
「なっちゃんなら、旅の人に助けられて、今は村長の家で寝てるよ。……やっちゃん、大事なお話があるから、村長のところへ行っておいで」
 ツグノの顔色からヤネリは何事かを予感したのか、繋いでいたイセイの手をきゅっと強く握った。
「……うん、わかった」
 ミヒルたち三人が村長の家を訪れると、村長夫妻に迎えられた。
「……ヤネリ。無事で良かった。あなたたちがヤネリを連れてきてくれたのか。礼を言う。私はこのヤマク村の村長をしているワケノだ。隣にいるのは夫のタカハだ」
 ミヒルはワケノに凛々しい印象を持った。女性にしては長身で姿勢が良く、引き締まった体つきをしていたためだ。
「なんだ、お前らもこっちに来たのか」
 ミヒルは村長のワケノの隣に立つタカハの顔を見て驚いた。よく知った顔だったからだ。
「ん?なんだ、タカハの知り合いか?」
 タカハの気安い対応にワケノは興味を示す。
「ああ。……いや、今はヤネリに話をしないとな」
 タカハはしゃがんでヤネリと目の高さを合わせる。
「ヤネリ。これからお前に大事な話をしなきゃならん。いいか、お前のお父さんとお母さん、それとヒウチだが、鍛冶場で狼に襲われて三人とも亡くなった。」
 ヤネリの目はゆらゆらと揺れる。
「……それとな。一度に言われても戸惑うかもしれんが、お母さんのお腹の中にいた赤ん坊、生まれたぞ。女の子だ。ヤネリ、お前の妹だ」
 タカハの言葉にヤネリは少しだけぴくりと体を震わせた。
「みんなは、どこ?」
 ヤネリは伏せていた顔を少し上げ、消え入るような声で呟く。
「みんなまだ血で汚れているからな。今きれいにしてもらっているところだ。もう少しだけ待ってくれ」
 ワケノもしゃがんでヤネリに話しかける。ヤネリはコクリと頷き、筵の上に座り込んで動かなくなった。
「それで、お前らはなんでこんなところにいるんだ」
 タカハはミヒルたちに向き直る。
「それは僕も少し興味があるね」
 そう言いながら奥から現れたのは、村までサクの亡骸を運んできたウチナリと別れて村長宅を訪れていたオキヒだった。
	
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